正 賞 『水暦』松田ていこ著
準 賞 『畦の花と雨蛙』やまでゑみ著
奨励賞 『かぐや 川柳少女の十五の夜』倉間しおり著
2014年6月29日、富山県・富山第一ホテルにて授賞式が行なわれ、平山繁夫選考委員をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された松田ていこ氏に手渡されました。また、準賞を受賞されたやまでゑみ氏には賞状、盾、副賞3万円が、今回特別に設けられた奨励賞を受賞された倉間しおりさんに賞状、盾、記念品が手渡されました。
第7回川柳文学賞は平成25年に発刊された句集のうち、申請のあった22冊を選考委員(大木俊秀・久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。
総評 選考委員:平山繁夫
第七回川柳文学賞選考委員会を日川協大阪本部で開いた。選考委員は、大木俊秀委員、久保田半蔵門委員、平山繁夫、文面参加として雫石隆子委員、林えり子(作家)委員、オブザーバーとして本田智彦事務局長が出席した。応募句集は22点であり、入賞作品は次の通りである。
正 賞『水暦』 松田ていこさん
準 賞『畦の花と雨蛙』 やまでゑみさん
奨励賞『かぐや 川柳少女の十五の夜』 倉間しおりさん
『水暦』
第一位 推薦者 久保田半蔵門委員
研ぎ澄まされた感性は心を打つものがある。この抒情性が文学の価値として高めている。多少の文語詩や切れ字が気になるかも知れないが、それが作者の持ち味として生きている。この句集を第一位に推したい。
第一位 推薦者 平山繁夫
現代の人間存在の危うさを死という主題に置いている。これは人間の虚無の実相であり、人間崩壊を支える核として知性や抒情の近代的成熟が見られる高質の一書である。
第二位 推薦者 大木俊秀委員
体調不良のため、評者の選考基準は届いていない。
『畦の花と雨蛙』
第一位 推薦者 大木俊秀委員
第二位 推薦者 久保田半蔵門委員
『畦の花と雨蛙』有機、無農薬、無化学肥料の本物志向を目指しておられる専業農家の主婦である。自然と対峙してまじめに生きてこられた姿は尊い。一年に二冊目を出版され、絵も上手に描かれる。これこそ農に携わる方の詩だと思う。
『かぐや 川柳少女の十五の夜』
第三位 推薦者 久保田半蔵門委員
15歳の少女が奏でる川柳だ。少し迷ったことも確かだ。俳句界にランドセル俳人がいるのなら川柳界にかぐや少女が居てもよい。句も大人の川柳と大差なく素直に伸ばしたい。
第三位 推薦者 林えり子委員
若い世代の活躍の一端を知った作品集である。3歳から作句開始とのことで、すでに熟練の域に達しているのでしょう。「爪を切る時は無心になれるのに」etc 生活詩をかろやかに詠むあたりは将来を嘱望させます。
今回、新しく設けられた奨励賞は、私たち忸怩たる川柳家の新しき未来を15歳の少女に仮託する思いの結晶が、満場一致の形となった。その他、一位に推した作品名、雫石隆子委員は、『新家完司川柳集(六)』、林えり子委員は『めぐ美(二)』堀尾すみゑさんである。
現代批評を自我として取りあげ、そこに血肉という感情を付託した比較的重厚な作品が見られた。私小説的な作品も散見されたが、鋭く自己を追いつめ、現代の不安を問題提議する作品もあった。今後も内質の高い作品を期待したい。
主な掲載作品『水暦』
- 花陰の亡母もかげろう吾もかげろう
- たましいの奥へ奥へと鈴をふる
- 虚と実の扉へ人形のゆびが触れ
- 水かがみ亡母と相似の炎を揺らす
- 亡姉ひとり鷺草の夜をわたりくる
- 風光る秋の花嫁うつむけば
- しんしんと生死の外に降るさくら
- 幾千の秋を抱きぬ薄原
- 縄文の青き時間と祷りの時間
- 夕虹をわたる幽かな鈴のおと
- ひっそりと野薊は野をかたりつぐ
- 春雷や針もつゆびの薄みどり
- 鬼ぞ舞い笛吹けばまた雪の民
- ひとひらの雪より生れ雪をうみ
- 累々と鬼をかくまう雪の嵩
- たまゆらの花のいのちに命名す
- 髪を梳く吹雪の音をききながら
- 凛々と澄みゆけ蒼きけものたち
- 桃あらう手もとの闇をほどきつつ
- ふり向いた少女に点る水蛍
- 留袖をたたむ寂しくあたたかく
- 火の色は原初のままに黒髪を吹く
- 古代史のひずみに蒼き父のまぼろし
- きみ逝くや水かげろうの裳を引いて
- 火を抱いて生れこしもの逝きしもの
- 母よ・いま海峡を蛍が渡る
- 小鼓や水澄むごとく火のごとく
- スッと立つ雪の水仙咲かせては
- 紙の鶴しずかに雪を視ていたり
- 風花の土に吸われてゆく音か
主な掲載作品『畦の花と雨蛙』
- 降るまでは鳴き止めません雨蛙
- 黒土に寄る小鳥らと打つ春田
- 耕して大地の力もらう鍬
- 新品種のときめくタネを埋めていく
- 葉桜に始まり藤も見て棚田
- とびっきりうまいおむすび田植唄
- 植え終えて祝う地酒に少し酔い
- 日除け柴背なにヒエ抜く麦わら帽
- サギはドジョウわたしは稗をとる棚田
- 麦の穂の一斉天を突きあげる
- 鎌の手を休めて愛でるたわわな穂
- 手刈りする手ごたえたしか稲の出来
- 忙中閑稲の朝露落ちるまで
- 四役をこなし快調コンバイン
- 鍬肩に農婦わたしのいい日暮れ
- マンサクの谷水引いて張る棚田
- 鍬休め見上げる峯に山ざくら
- ふる里はどこも絵になる過疎の春
- 出来秋の夢を見させる苗のよさ
- 頬なでる風さわやかに初田植
- 早苗吹く風さわやかに植えじまい
- 今年またよろしくと田に鴨放す
- 帽子だけ動きのみえる田草とり
- アイガモが飛び交い池にした稲田
- ジャガイモの花夏だよと咲き始め
- ぬかる田に怖けてしまうコンバイン
- ギョッとする蛇も同じか逃げていく
- 稲を刈るエンジン音が天に抜け
- ミレーよりステキともんぺおだてられ
- 飢餓案じ日本の国の農を問う
主な掲載作品『かぐや 川柳少女の十五の夜』
- ひとりでは月に帰れぬかぐや姫
- 魂に塗るクリームはありますか
- 三日月の欠けた部分に宇宙人
- 尾を生やす正直者になりたくて
- 一本の木になりたくて入る森
- マンションの窓開けきって夏に会う
- 手のひらで世界が動く文庫本
- 脇の毛がヘチマのツルのように伸び
- 手始めにどこを攻めようパフェの城
- 大根の白さで殴りたいあの子
- 少女から母へ女の進化論
- 爪を切る時は無心になれるのに
- 眠れないのをコーヒーのせいにする
- 有料の愛でもほしい時がある
- ゼロという数字に目鼻描いてやる
- 憧れてキリンに化けてみるバナナ
- いつからか口の一部になったガム
- 妙案は出てこぬ自動販売機
- トナカイもピエロも同じ赤い鼻
- 夏祭り魑魅魍魎とすれ違う
- 庶民派のイメージがある鯵フライ
- 日によって濃淡がある月の色
- 死屍累々と枝豆の皮
- 生真面目な豆腐の白を箸で突く
- ニンゲンを食べて三日月あの笑顔
- 目玉焼きどろりと泣かす皿の上
- ひっそりと風呂でイルカを飼ってます
- 落ちた蝉不協和音のようにいる
- 枯枝は何を求めて手を空へ
- 帰り道ふと眼で月を探す癖