2010年6月12日、鳥取県・ホテルモナーク鳥取にて授賞式が行なわれ、大野風柳選考委員長をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された河村啓子氏に手渡されました。
第3回川柳文学賞は平成21年に発刊された句集のうち、申請のあった20冊を選考委員(大野風柳・大木俊秀・久保田半蔵門・平山繁夫・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。
もくじ
もくじ
第七回川柳マガジン文学賞大賞受賞作品
秋から冬へ
第一章 故郷に帰りたくなる象の尻
第二章 立葵フランスデモの帰り道
第三章 耳の奥ほら潮騒が聞えてる
第四章 たて書きの便箋を今日買いました
第五章 春になり帽子と男取り替える
第六章 六月の海を見に行く紙袋
第七章 石榴割れ私の中にある祭
第八章 二人称から三人称へと二月
あとがき
装画 河村啓子
題字 嶋澤喜八郎
総評 選考委員長:大野風柳
この賞も今年で三回目を数える。今回も五名の選考委員が時間をかけて審査に当り、一席・二席・三席の句集を推薦し、上位から三点・二点・一点とし、その合計点で決めた。
本来であれば五名が集り、討議の中から大賞を決めるべきではあるが、最高点が八点、二位が四点とその開きが大きく大賞を「逢いに行く/河村啓子」に決めた。
なお推薦した選考委員の講評は次の通り。
・大野風柳(二位)のことば
作者は日本画を描いており、川柳も出逢った人、風景、言葉などからの感動をそのまま表したいとあとがきに書いている。これから楽しみの作家として注目していきたい。「ストローの中で答えが上下する」「一本の木に深々とお辞儀する」が良い。
・大木俊秀氏(二位)のことば
いかにも女性特有の感覚の上に、比喩、省略、飛躍、措辞が的確で「伝達性をそなえる詩」として川柳の理想的な作品揃いと感服した。
・久保田半蔵門氏(二位)のことば
川柳マガジン大賞を受賞されただけのことはある。女性らしく、やさしく、読み易い。バランス感覚のとれた新鮮味のある句。柳歴の浅い割りには感性がよい。日本画の趣味あり。句集としてのまとまりがある。
・平山繁夫氏(二位)のことば T.S.エリオットの言葉に「日常の自己を圧迫しているものから脱出した解放感だ」と詩を詠んだ後の充足感を評している。この事はもうひとりの自己を発見した歓びでもあろう。表現形態も散文的で、現代のモダニズム、いわゆる都会的なウィットがあるが、その裏面には現代に生きる現代人のきびしい心象風景が見える。
主な掲載作品
- ふいに手を繋ぎたくなる烏瓜
- 字あまりの言い訳をする秋の蝶
- 水たまり覗けば空が澄んでいる
- ふるさとの銀杏にメール打ってみる
- 秋がゆく美しい物折りたたみ
- 故郷に帰りたくなる象の尻
- グリーンピース誰かがいつも迷い子に
- 行ってこい行くなと揺れるプラタナス
- 耳の奥ほら潮騒が聞えてる
- 夕焼けを見ている背なが動かない
- 書いたとき時雨たんだね白封筒
- あの夜のジョッキは確か怒ってた
- ふっと魔がさしそうになる午後の五時
- 七曜の顔を持ってる私です
- ストローの中で答えが上下する
- この糸が切れたら風になるつもり
- 耐えてきた言葉ねとても丸いもの
- まっすぐな虹に足りない色がある
- 泣いてない時雨が通り過ぎただけ
- 冬支度なんども母と逢っておく
- ふる里の訛でメール打ってみる
- 立葵フランスデモの帰り道
- 手鏡で最期は空を見てみたい
- また一つ嘘を許して時雨ゆく
- 恋をして秋の七草知りました
- 春になり帽子と男取り替える
- 六月の海を見に行く紙袋
- 石榴割れ私の中にある祭
- 溜息のかたちで椿落ちました
- 一本の木に深々とお辞儀する