2009年6月27日、北海道・京王プラザホテルにて授賞式が行なわれ、大野風柳選考委員長をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された佐藤美文氏に手渡されました。
第2回川柳文学賞は平成20年に発刊された句集のうち、申請のあった17冊を選考委員(大野風柳・定本広文・大木俊秀・久保田半蔵門・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。
もくじ
2001年~2007年 作品
あとがき
題字 川瀬 翠
装丁 新葉館デザイン室
総評 選考委員長:大野風柳
今回寄せられた句集は17冊、日川協の文学賞としては寂しい冊数である。次回はまずこの数字をふやすことから始めたい。五人の審査はそれぞれの個性が出ていてすべてうなずける内容である。しかしその中から一冊を選ぶとなると大変な仕事となる。結局五人の選ばれた数で決めざるを得なかった。
そして佐藤美文句集「風」と決めた。
推薦する三人のことばは次のようである。
・大木俊秀氏(一位)のことば
「文学としての川柳を常に標榜しておられる氏の句集だけあって豊かなセンスと凛としたインテリジェンスを汲み取れる。川柳を知・情・意の三つに分けるとすれば、?知の川柳?と私は見る。その?知?も難解なものではなく、納得と共感の句が並ぶ。今の川柳は、そして将来の川柳はかくあるべしと範を垂れる句集と拝見した。」
・大野風柳(二位)のことば
「まず句集の作品はすべて雑詠として発表したものであるということ。雑詠を大切にする作家として評価する。常に新しいものへの挑戦も地に足を着けての作家姿勢を評価。亜流を嫌い独自の世界を求める作品を高く評価したい。」
・久保田半蔵門氏(三位)のことば
「作品は雑詠吟だとおっしゃるが、時事吟も結構混じっている。ベテランらしく達者で格調も高い。」
以上三人の推薦のことばを要約してみたが、この他に「川柳文学史」や十四字詩の研究、更に日頃の真摯な活動にも触れている。
作品としては
吊革の視野下町の屋根貧し
広辞苑老後豊かにしてくれる
誠実はズボンの折り目だけとなり
が取り上げられた。
参考までに審査員が第一に推した句集は次の通りである。
林 えり子 「 満月と男 」砂田 勝行
定 本 広 文 「あ さ か」中田 たつお・岩田 明子
久保田 半蔵門 「 みちくさ 」鈴木 異呂目
大 木 俊 秀 「 風 」佐藤 美文
大 野 風 柳 「山びこの詩」前 たもつ
主な掲載作品
- 新しい街に破けたままの地図
- 各論になってやじ馬いなくなり
- 守るより攻めの半歩を躊躇する
- 決断をする一本の棒を飲む
- おもちゃ箱兵器も精度上げている
- ラーメンをすする友情とはうれし
- 一輪挿しの菜の花と向かい合う
- 神様はいるかもしれぬ春の雲
- 余生とは言うまい川の水豊か
- 理屈ではわかっていても曲り癖
- あれこれと噂素顔は一つだが
- 納骨を済ませて春の風まとう
- 広辞苑老後豊かにしてくれる
- 待ちぼうけかすかな風に振り返り
- 吊革の視野下町の屋根貧し
- 戦後史の中で不動の卵焼き
- 雪解けの水が太鼓の音となる
- 本籍はふるさとにあり春の雪
- 消化試合へコスモスが揺れている
- イラクの空に果物の色がない
- 誠実はズボンの折り目だけとなり
- 妻よりも強くなろうと思わない
- 負けて勝つ小技も性に合っている
- 平凡の美学に合わす発泡酒
- 偽善かもしれぬ端数を整える
- ワイドショー話上手に聞き上手
- いい天気道に唾する者もなく
- 会議室私語のどれもがごもっとも
- ドクダミの花にも固定資産税
- 住み慣れて都会の隅もいいもんだ