2008年6月7日、福岡・天神にあるソラリア西鉄ホテルにて授賞式が行なわれ、大野風柳選考委員長をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された西出楓楽氏に手渡されました。
第1回川柳文学賞は平成19年に発刊された句集のうち、申請のあった11冊を選考委員(大野風柳・斎藤大雄・大木俊秀・久保田半蔵門・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。
もくじ
序文 木津川 計
風の私語(昭和54年~昭和59年)
幸福の絵(昭和60年~平成元年)
晴のち晴(平成 2年~平成 6年)
針のない時計(平成 7年~平成12年)
魯山人の皿(平成13年~平成17年)
あとがき
装丁 安積 義之
総評 選考委員長:大野風柳
第一回の川柳文学賞は、西出楓楽さんの『天秤座』と決まり、六月七日の全日本川柳福岡大会前夜祭で表彰されました。
三百人近い参加者のあたたかい拍手は会場に響き渡りました。
全日本川柳協会で作品賞が無いことを私は常に気にかけておりましたが、今年から前年度刊行句集を対象にこの文学賞が設けられて本当に嬉しく思います。
他の詩、短歌、俳句の世界では、早くから句集を対象とする賞が設置され、しかもいろいろな賞があり、その受賞が作家にとってとても大きな勲章として受け止められております。
今回はわずか十一冊でしたが、文学賞がこれからの大きな目標となり、川柳句集が刊行され多くの応募で川柳界の活性化につながることを望んで止みません。
さて今回は五名の選考委員が別個に審査をし、その結果から最終決定は委員長が当たることになりました。本来は集って議論をしていくべきだと思っております。
結果はすでに三名が『天秤座』を第一に推薦したために難なく文学賞受賞となりました。
斎藤大雄委員の「句の中から出てくる一人の人間像に引きつけられた」。大木俊秀委員は「てらいや気取りもなく、平明な作品が並び、しかも凛としたたたずまいを感じた」と述べております。私も「伝統的な落ち付きと安定した川柳観が漂う」句集だと思います。
しかも、句集のあとがきの最後に「生涯に一句でもいのちある句が残せるようにこれからも歩み続けます」とあり、この志は麻生路郎、橘高薫風という師からの訓えそのものであります。この精神が全日本川柳協会の文学賞を獲得したと言っていいのではないでしょうか。
惜しくも次点としては『小宇宙』(青木勇三)。『豆電球』(丸山芳夫)。『わかさ』(大戸和興)などが挙げられます。
次回の応募を期待しております。
主な掲載作品
- 針のない時計を持って夢買いに
- 去りぎわにだけ喝采があればよい
- お茶の間の隅にわたしの解放区
- 許し合うべしと花屋に花がある
- てのひらの中でむかしを眠らせる
- 太陽をいつも原風景に置く
- 幸せと同じ重さの足枷よ
- 腰痛ははすに構えたせいらしい
- てにをはをたがえ本音が出てしまう
- 女文字きれいなだけが能でない
- 老母といてやさしい息になってくる
- 平熱が少し低目で淋しがり
- 竹光で斬られた傷がまた痛む
- じぐざぐに歩いて戯画に溶けてゆく
- 飲み込んだ言葉いい味出してくる
- 絵に描いた餅が美し過ぎないか
- めし茶碗をいつも味方につけておく
- 誠実で真面目で救いようがない
- 距離感をとても大事にして夫婦
- 両の手をあふれたものは地に還す
- 六方は踏めぬ自作自演劇
- 目のうろこ取れたら諸行みな無常
- 膝をかかえてわびしさを倍にする
- 古傷は何度なめてもほろ苦し
- 幸福の絵は淡彩で描いておく
- 風光るわが終の日もこのように
- ピアニッシモにはじまる春のものがたり
- 秋なすびとかく女は御し難し
- 温度差があるおおきにとありがとう
- 風船しぼむ望み叶った形して