2012年6月9日、徳島県・阿波観光ホテルにて授賞式が行なわれ、大木俊秀選考委員長をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された荻原鹿声氏に手渡されました。 第5回川柳文学賞は平成23年に発刊された句集のうち、申請のあった28冊を選考委員(大木俊秀・久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。
総評 選考委員長:大木俊秀
今年の「川柳文学賞」には28冊の句集が寄せられた。ご参加くださった皆さんに厚く御礼を申し上げたい。選考委員は、久保田半蔵門、雫石隆子、林えり子、平山繁夫、大木俊秀の5人。各自がそれぞれ3冊を推選して日川協事務局にあらかじめ提出した。これまでは第1位を3点、第2位を2点、第3位を1点として得点を集計し、最高点を得た句集に「川柳文学賞」が贈られていたが、今回は選考委員が24年5月11日、大阪の日川協事務局に集まり、5人の推選理由をベースに討議の末決定するという方式をとった。委員会には、久保田、平山、大木の3人が出席。本田事務局長もオブサーバーとして同席した。
5人で3冊は15冊となるが、このうち3人から推挙されたものが1冊、2人から推されたものが2冊だった。したがって1票を得た句集は8冊となったが、推選3冊の他にも、それに準ずる句集を出席3人の委員がそれぞれに持ち寄ったので、それらも含めて広く議論を交わした。その結果、3人から推されて6点を得た『埋み火』がやはり順当という結論に達した。
推選理由は次の通り。「この作品群には、伝統の抒情性に新しい可能性を見出そうとするひたすらさが触感され、現代川柳を追及するストイックな実践がある」(平山)。「川柳作家として充実期の十年分の作品に圧倒された。社会人として男としての生きざまと深い自省にたじろぐばかりだ。自らの人生を通しての社会批判も鋭い」(雫石)。「具象と抽象のほど良い絡みが、比喩の巧みさとレトリックのきめこまかさに支えられ、都市と田園の両方から、しっかりと人間、人生、人世を見据えて、現代川柳の中道を行く姿を見る思いがした」(大木)。
来年も積極的なご参加をお願いしたい。
主な掲載作品『埋み火』
- デッサンのときは笑っていた家族
- よき父であったか夕暮れを歩く
- 幸せという妻の手が荒れている
- もう二度と鳴らないベルを待っている
- ふたひらの雪ひとひらを語りつぐ
- さよならを寒い景色にはしない
- 褪せてゆく自分が怖いから歩く
- 夕暮れのなかで指折る友の数
- 鈍行で行く一冊の本愛す
- 肩の荷を下ろし目刺しを南無と焼く
- 終りたくない埋もれ火を抱いてゆく
- 信号を無視して駆けたことがある
- 笑い皺なんと重たい海だろう
- 人間が好きでときどき砂を吐く
- 笑おうよ葉桜だって揺れている
- ヒロシマを越える片仮名みあたらず
- 書けそうな気がするにわか雨上る
- 吹かないで下さい俺のしゃぼんだま
- 迷子にもなれずいつもの汽車に乗る
- ふるさとで小鳥が飲んだ水を飲む
- 二つある判こどちらを使おうか
- 透明になりたい石を積み重ね
- 私の臭いが消えぬ一夜干し
- 悲しくて篠突く雨のなかをゆく
- 鉛筆があれば静かに母と書く
- たましいが長い散歩に出ています
- 生きてきた証し折れてる傘の骨
- 結論が出るまで返す砂時計
- 羽化をするには一通がまだ来ない
- 人間になろう小窓を開けておく