正 賞 『雲のかたち』鎌田京子著
準 賞 『レム睡眠』竹内ゆみこ著
2015年6月13日、千葉県・犬吠埼ホテルにて授賞式が行なわれ、平山繁夫選考委員をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された鎌田京子氏に手渡されました。また、準賞を受賞された竹内ゆみこ氏には賞状、盾、副賞3万円が手渡されました。
第8回川柳文学賞は平成26年に発刊された句集のうち、申請のあった13冊を選考委員(久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・林えり子(作家))4名(敬称略)が選考しました。
総評 選考委員:平山繁夫
平成27年5月12日、第8回川柳文学賞選考委員会を東京・台東区西浅草生涯学習センターに於いて行われた。
出席者は久保田半蔵門委員、林えり子委員(作家)、平山繁夫委員、雫石隆子委員(文面参加)、オブザーバーとして、本田智彦事務局長が出席した。大木俊秀委員長は欠席。
評 『雲のかたち』
一位推薦者 雫石・林・平山の各委員、
本書は史書的な作品である。内容的には抒情に流されず、伝統文芸としての「うがち」を主点に置く手法がよい。最近の川柳は私小説的なものが多いがこの作品には普遍性、共感性があり川柳らしさがある。また本来もつ抒情の古風を現代の知性に包みこむ技巧と、視覚的感覚から主知的思考への展開が巧妙である。
評 『レム睡眠』
一位推薦者 久保田委員
二位 〃 雫石委員
三位 〃 平山委員
この作品の軽味の世界、境地を買う。
リズム感があり、言葉に音楽性があり、心のゆらぎや微動力がよい。これからの川柳の方向性を示している。独特の文体を持ち、自己を凝視する姿がある。
若い作家のオリジナリティを評価し次代へつなぐ句集である。一方、本書に活用されている会話調は、短歌の世界で平易で都会的で若い歌人にうけたのが、昭和六十二年であり、学者から全体的に軽口で内質が貧しくなるとの指摘があり、短歌界で中心課題となった。そんな歴史があった事を川柳人も認識すべきだという発言も聞かれた。入賞外となった「ありがとう有難う」も注目された。
主な掲載作品『雲のかたち』
- 三月の海もわたしも泣き虫で
- 黄昏を一枚ありがたくもらう
- 再生へ無言のシャドウボクシング
- 泣くだけ泣いてバラが一輪咲きました
- いちにちの真ん中辺で行くトイレ
- 熟れ過ぎて上手に笑えない果実
- 手に入れるまでは微笑を繰り返す
- マニュアルの通りに死んでいく途中
- 定位置に家族が揃う盆の窪
- さよならをするため生まれてきた右手
- 本物にいつかなりたい紙コップ
- 悔し涙と嬉し涙の汽水域
- 笑わない家が見ている昼の月
- 一期一会の風に触れてるシャボン玉
- その時の玄関靴で溢れるか
- 悲しいことが沢山あって裏返す
- 雨上がる優しくされたところから
- 踏切を待ってるうちに老人に
- うっかりと雲のかたちを渡される
- 空ばかり掴まえている捕虫網
- 消しゴムで消えないところ沼になる
- 平凡な生暖かい縄を綯う
- 海までの距離を測ってから眠る
- 体中の枝を集めてする焚火
- 月曜に出す私の中の燃えるゴミ
- 思い出を反芻してる更地たち
- ロウソクの下にいるから見えるもの
- バス停が昨日と同じ場所にある
- 薔薇咲いて散ってわたしの壊れ方
- 天国へ行く楽しみが少しある
主な掲載作品『レム睡眠』
- ああそうかそうかと水になってゆく
- すみませんあしたはどこにありますか
- ちょうどいい箱を見つけてきましたよ
- あなたのことをよく見るために目を閉じる
- 泣いてたね知らないふりをしてあげる
- 何もないかも知れないけれど手を開く
- 進化論いつかは人になれそうで
- どこへでもお逃げなさいと夜が来る
- 吐く息が白いあの冬からずっと
- それぞれの顔で泳いでゆく鰯
- おやここに心が一つ置いてある
- 迷ってますね準急に乗るなんて
- シンバルをバンと叩いてちゃらにする
- らりるれろあたりでやっと追いついた
- 続編はいらない本編に賭ける
- 0から1へ ものすごく遠いねえ
- こんにゃくの素質も少しおありです
- 残念賞を袋いっぱい持ち帰る
- さよならの匂いの残るシャツといる
- アリバイはある 徳島で踊ってた
- ブラジルに届いてしまうほど笑う
- 花びらのひらひらひらを聴いている
- わたくしを見つけてくれる月明かり
- ゆくゆくは優しい人になるつもり
- 寂しさをわっと広げている孔雀
- 今ちょっと恩を返しに行ってます
- 追伸 このあいだ噴火しました
- ゼロという必殺技を持っている
- 箸置きになっているので行けません
- 青空をギュッとつかんで立ち上がる